2019.03.01
セミナー
人生100年と言われる時代になり、インターネットやAIが発達した今日、個人のキャリア形成、会社との向き合い方も大きく変化し始めた。そこで、コラボレーションで新たな価値を創造に取り組むビジネス・コンサルティング会社、シグマクシスの柴沼俊一氏を迎え「AI/IoT時代を生き抜く4つの“観”」というテーマで講演会を開催した。その内容を4回に分けてお届けする。
(2018年11月21日開催)
藤村:弊社は会社と個人の関係というのがどんどん変わっていく中、企業から見ればオープンイノベーションの源泉に、個人の方から見るとライフサポート、キャリアサポートということをやらせていただきたいと思っております。 柴沼さんは先見の明があって、5年前に『アグリゲーター』という著書で、まさにこういう時代の到来を予言していらっしゃいました。本日はよろしくお願いします。
柴沼:皆さん、こんにちは。柴沼と申します。
今日は、皆さんにお時間頂いて、4つの観、「事業観」、「世界観」、それから「人生観」、「経営観」の話をしたいと思っています。
柴沼俊一氏 プロフィール
株式会社シグマクシス マネージング・ディレクター ヒューリスティックシェルパ担当。
日本銀行、外資系コンサルティングファーム、ファンド投資先企業を経て現在に至る。金融、消費財・サービス、製造業、ファンド等の幅広い業界に対し、全社・事業戦略やM&A・提携戦略の策定・実行支援、新規事業立ち上げ支援、営業・マーケティングのオペレーション革新等のプロジェクトを得意とする。現在、グロービス経営大学院教授。
藤村慎也 プロフィール
インプロ・グループ株式会社 代表
外資系戦略コンサルティングファーム出身。インド・ニューデリー事務所に駐在経験あり。独立後、2016年にフリーランスのプロフェッショナル・ネットワークであるインプロ・グループを立ち上げる。製造業、ICT、金融、公共セクター等様々な業界において、戦略、オペレーション、組織変革等のプロジェクトを手掛けている。
変わる価値創造のカタチ
最初に「事業観」からお話をさせていただければと思います。
事業における価値創造のあり方は、大きく2つあると言われています。ひとつは左側の「グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)」。これは主にこれまで製造業が採用してきたモデルです。「モノ」と「コト」でいえば、「モノ」が大量に作られるときのモデルですね。この世界は、での製品工場を出た瞬間に価値が決まります。認知を高めるマーケティング、セールスプロモーションを経て、消費者の手に届けるという形です。
一方、ここ最近、業界に関わらず右側の「サービス・ドミナント・ロジック(SDL)」に注目が集まっています。この世界では、企業はお客様と企画段階からコミュニケーションを始めます。さらにお客様がその製品やサービスを使っている間の情報もフィードバックを受け続けます。当然使用後の感想、クレームも、メンテナンス状況も巻き取ってそれを製品・サービスのアップデートに反映します。つまり、お客様の「体験」情報を全部活用するプロセスを設計して動かすということなのです。この世界では、マーケティングも製造も販売も同時に行われる点が、GDLとは大きく異なります。
人間が行うオペレーションのままで、ずっとお客様とやりとりし続けるのは無理ですね。そこで威力を発揮するのが「デジタル」です。お客様の反応、お客様の行動をデータとして手に入れられれば、それをフィードバックとして活用することができます。今「データ」の重要性が叫ばれている理由は、ここにあります。
インダストリーの概念がないプラットフォーマーの登場
そんな中で、最近よく登場するもう一つの言葉が、“プラットフォーマー”です。プラットフォーマーとは何か?この議論をするには、データ層とデジタルテクノロジー層、そしてインダストリー層という3層で議論をすると分かりやすいと思っています。
一番下のインダストリー層というのは、皆さんが普段触れている、いわゆる「業界」です。川上から川下に流れるバリューチェーンをなぞって、価値が生み出されるビジネスモデル。いわゆる日本の伝統的な大企業のほとんどは、このインダストリー層で事業活動を行っています。
一方で、プラットフォーマーはどこで戦っているかというと、一番上のデータ層です。データに価値を置き、そのデータをやりとりすることを事業にしている。いわゆる「GAFA」「BAT」と総称される企業はここにいます。彼らには、一番下の層でいうところの「業界」「インダストリー」といった概念は一切ありません。
残念ながら、インダストリー層の企業がデータ層の企業に戦いに挑んで勝利したケースは今のところほぼゼロです。なぜなら、インダストリー層の企業は「川上に上がる」「川下に下がる」といったバリューチェーン上でのポジショニングどりを戦略であると考えるのに対し、プラットフォーマーはバリューチェーンそのものを全体最適で全部ひっくり返すことを戦略に位置づけているからです。これでは勝ちようがありません。
アマゾンのケースで見てみましょう。彼らは実はもともとはデータ層から登場し、下の層に降りてきている企業です。ハイエンドのスーパーマーケット等も取り込み、家の近くの所に配送する。要は物理層まで全部押さえに来ているのですね。上から下まで全部押さえちゃえばこうなりますよ、というのが、アマゾンの世界になります。米国でアマゾンの世界に対抗できている会社というとWalmartぐらいでしょうか。
「昔は俺たち日本企業が、いろんなイノベーションを起こしてきたのに、今は起こせない」と思っている経営者はたくさんおられますが、戦略のたてかた自体に大きなパラダイムチェンジがあるのです。
一言で「データ」といっても層がある。勝負は「どの層を狙うか?」
さて、では日本はもうだめなのか?「GAFAやBATに全部データ抑えられたから勝てない」という声もききます。でも「いや、ちょっと待って」というのが次の私の話です。「データ」と一言で言っても、いろいろな層があります。層を見極めれば、まだまだ戦う余地が残っているところはあるのです。
我々はデータ層は5層はあると思っています。
GAFAが得意とするのは、実は一番上のIoPです。
IoTの領域はGEが抑え始めたと言われていたのですが、実はあまりうまくいっていないことが昨年見えてきました。IoTといっても、航空機などのある一領域だけしかカバーできなかったのですね。実は製造・インフラの膨大かつ微細なデータは、電力会社や製造業など、日本の企業が実は持っている。
IoH(Health)の領域のデータについても、いまだ未知の領域です。DNAの解析ができるようになったとは言われるものの、ヒトゲノムの解析で分かったことは「まだまだ人のことはほとんど解明しきれない」ということでした。ここも日本がこれから進出できる世界だと思います。
IoM(Molecule)レベルになると化学反応や、原子、分子の振る舞いをどう捉えるか、という世界に突入します。例えばシーメンス社は、材料のデータを取ると、それを航空機メーカーに提供します。航空機の納期をどれだけ早められるかがメーカーにとっての収益性の鍵。数千億円単位でインパクトがあるので、このデータはものすごく大きな価値を持つのです。
IoS(Synapse)の層に書いてある、Neuralinkは、イーロン・マスクさんが持つ、脳をリバースエンジニアリングする会社です。これができるようになると、圧縮型コミュニケーションといわれる今、我々が使っている言語のみならず、イルカやクジラと同じように空間情報を直接お互いにコミュニケーションする非圧縮型にすることが可能になる。ここには未知のビジネス領域がありますね。
さきに述べたGDLとSDLの世界を横軸にとり、この5層を縦軸にとってみると、向こう20年くらいはまだまだ事業の可能性が広がっていることが見えます。何が言いたいかというと、簡単に「GAFA」や「BAT」に抑え込まれるほど、データの海は浅くない、という事です。だから、そんな心配しなくていい。もっと面白いことはいっぱいあるから、どんどんやろう、という話です。
「今、中国もすごい」という感覚も、みなさんお持ちかと思います。日本よりキャッシュレスが進み、OMO、Online Merges Offlineという世界、すなわちオンラインから入ってオフラインに行ける、オフラインから入ってもオンラインに入れる、というような環境ができあがっています。ある種の国策としてデータを全体でおさえようという流れです。戦いかたは一つではありません。
では、事業の次に、世界そのものは結局どんな姿になるのかという話を、「世界観」としてお話したいと思います。