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インプロ・セミナー「AI/IoT時代を生き抜くキャリア戦略」 開催報告 第3回 (2018年11月21日開催)

2019.04.19

セミナー

人生100年と言われる時代になり、インターネットやAIが発達した今日、個人のキャリア形成、会社との向き合い方も大きく変化し始めた。そこで、コラボレーションで新たな価値を創造に取り組むビジネス・コンサルティング会社、シグマクシスの柴沼俊一氏を迎え「AI/IoT時代を生き抜く4つの“観”」というテーマで講演会を開催した。第3回は「人生観」、「経営観」の2つをテーマに伺う。

(2018年11月21日開催)

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「それでもやりたい」という強烈な意志を持つアグリゲーターが鍵

さて、300年単位の変化と100年単位の変化が同時に起こり、こんなに事業観、世界観が変わると、人生観もおのずと変わっていきますね。

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デジタル化の進行、予測不能な環境(VUCA環境)、個人のパワーの増大、100年人生という環境変化によって、まずこれまでになく「個人」が軸になる人生のあり方へとシフトします。一人一生ひとつの職業に縛られてその中で生きていくのではなく、主業、副業、複数業を駆使しながら生きていく人生になると、自分自身のアイデンティティーとは何か、ということを考える、あるいは自分の使命や天命というものを、再認識することになるのではないでしょうか。

私自身、「アグリゲーター」という生き方を標榜していますが、そのアグリゲーターが活躍する場所が「エコシステム」です。そもそもアグリゲーターって何かといいますと、先ほどの事業観や世界観の中で、「未来の常識を今考える人」だと言い換えられると思っています。

ただ、アグリゲーターになるためには、当然のことながらお客様もサービス内容も動き方も、自らで自由に設定する必要があります。一方、一人では何も実現できませんから、不足する能力は自由自在に取り込む力が必要になる。そういう意味では、自分自身の成功体験やそこに根差すDNAを捨て続けていかないといけない。

…と大体ここまで話すと、みなさん「めちゃくちゃ大変そうだ」と思うわけです。そうなんです。めっちゃくちゃ大変です。だからこそ、社会を動かしていくのは、「それでもやりたい」という強い意思を持つ人なんだと思うのです。それがアグリゲーターです。

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一般的に日本の企業は、物事の進め方が課題解決型といわれます。「これをやろう、なぜなら会社の経営課題を解決するためだから」というアプローチ。取り組む人は「仕事だから」と取り組みますね。一方アグリゲーターは「これをやれば社会が変わるよ、だからやろう」というアプローチ。ここには会社の課題も問題もない。「会社を辞めても、これをやりたい」と思って取り組む人には、絶対に勝てないのです。

giverのコミュニティがエコシステムを創り上げる

最近、オープンイノベーションといった言葉、みなさんもよく耳にするかと思いますが、これは「giver」な人達が集まって初めて機能するものです。そして「giver」の集まりが、価値を生むエコシステムを形成します。志を持ち、仲間を集めて価値創造に取り組むアグリゲーターにはエコシステム形成は必須の活動となります。

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この図では、全員がgiverだと、左側にあるように6×5÷2は15本になります。それを6人で割ると一人ひとりのgiverには何もしなくても2.5本手に入るんです。

ところが、例えばこの中にtakerが2人入ると何が起きるか。まずtaker同士では物事が動かないので自動的に線が1本なくなって14本になる。かつ、takerは自分のつながっている線を全部取るつもりでここにいますから、この二人は4本ずつ取ってしまう。そうなると、そもそも取ることを考えていないgiverは1.5本しか手に入れられない。

実は、このtakerパターンが、大企業同士のオープンイノベーションやエコシステム形成でよくみられます。互いに「共創しよう」と付き合い始めるのですが、まずいきなりNDAを結びましょう、というところから始まる。おいおい、NDAをいきなり結んだらオープンにならないじゃないかと(笑)。オープンにやろうということであれば、ある程度リスクフリーの関係性で始めないと何も動きません。

例えば、大企業同士でAIのプログラムを作ろうとするとします。まずNDA締結の段階で半年かかる。知財をどっちのものにするかで議論が終わらないのです。いやいや、知財も何も、データすら触ってもいないのにNDAの段階で半年かかっていたら、もうマーケットでは負けが決まってしまいます。

結局、ベンチャー企業のほうが動きが速い。だから大企業同士からなかなか新しいものが生まれないのです。アグリゲーターが活躍できる環境としてエコシステムが必要、と考えると、このgiverネットワークのエコシステムを作れるかどうか、が鍵になります。

(写真:シグマクシス・柴沼氏)

経営者は社内を見るのではなく社外に出る時代に

みなさんマネジメントといったら何をマネジメントしますか?「人」「物」「金」を思い浮かべる方が多いかと思います。実はこれらはすべて社内の経営資源なんですね。でも、さっきお話ししたように、外部のネットワークを駆使して価値創造をしないと何も生まれない時代です。アグリゲーターがエコシステムの上で事業を創造するときに必要なマネジメントとは、なんでしょう?それが「エクスターナルマネジメント」です。

社長の仕事は、自ら外に出て、多様な人とつながって、人脈や面白い案件の種を持ってくるのが仕事になります。椅子にふんぞり返って「あれはどうなった」と報告を求めることではもはやないのです。

ちなみに私がこういうお話をすると、大体の経営者の方は「俺もそう思う」「新しい商売を持ってこなきゃいけないのは俺だと思っている」とおっしゃる。でも実際にはそのようにはそう簡単には動けない。心のどこかで「自分は偉いし、スタッフもいるし、待っていれば誰かが来てくれる」という気持ちがあるからです。

「俺はイノベーションを起こせと言っているんだけど全然社内で起きない」と言う経営者の方に言えることの一つは、「もしかしたらあなたの頭の中でイノベーションが起きていないからかもしれません。」ということです。大切なのは、自分自身を変えること。自分は一体今何者なのかというのをもう1回問い返して「break the comfortable zone」に自ら取り組むことが必要なのです。自分が居心地がよいと思う所から自ら抜け出すことにチャレンジしない限り、これからのビジネスは成り立たないのです。

金融資本と共感資本をどうやってバランスするか

ちょっと話は変わりますが、経営管理に「ポートフォリオ理論」というのがありますね。みなさん常識だととらえていると思いますが、あの理論は今の時代は通用しなくなってきています。なぜか?ポートフォリオは収穫逓減を前提に作られた論理ですが、プラットフォームビジネスは収穫逓増のビジネスなので、まったく当てはまらないからです。

ポートフォリオの考え方は、ある一定までいくと追加の収穫ができなくなることが前提なので、投資するにしても、あるタイミングで回収して、余剰がでたらまた投資して回収して、とこれを繰り返します。一方プラットフォームビジネスの場合は、ある閾値を超えるまでは徹底的に投資をし続け、閾値を超えたら劇的に収穫逓増、というモデルなので、とにかく最初に投資をし続ける。実はこのモデルが難しいので、日本でなかなかイノベーションが起きないとも言われています。

例えば、「大きく張れ、俺が責任を取る」と社長が言ったとします。そこで「では1億円投資したい」というと「おまえ、その分いつ回収できるんだ」という質問が次にくる。「いやいや、1億円なんてまだ最初の1歩目ですから。全部で100億円必要なのに1億円で回収計画出せと言われても・・。」という話になるわけです。この投資したら回収できるはず、というのは、冒頭で述べたGDLの世界の常識であって、SDL、プラットフォームの世界とは全く前提が違うのです。

ポートフォリオで管理するべきものも当然ありますが、収穫逓増の世界観とメカニズムは日本の経営の世界において、すっぽり抜けています。ポートフォリオ型で見るものと、プラットフォーム型で見るものもを分けて管理できますかというのが、今求められる経営管理の話です。

さて、では「企業経営」はどうなっていくのでしょうか。

シリコンバレー企業を中心に今大切とされているのは、MTP(massive transformative purpose)です。すなわち、社会をこのように変えたいという企業の想いを使命としたものを起点に事業としての価値を創造する、という考え方です。

ここでの「資本」は金融資本も当然ありますが、さきほどから説明しているエコシステムで生まれる「共感資本」が重要となります。株主から要求されるリターンをきちんと返しながら、いかに自らのビジネスにおけるエコシステムを豊かにできるか、ということが論点になります。

1990年代から2005年ぐらいまでの間に成功していたグローバル企業は、「1株当たりEPSをこれくらい上げます」と株主にコミットすると、それを目標値に分解して世界全部門に展開しています。それをさらに個人目標に直結させます。最終的には、それが達成できた人が評価されるという仕組みなわけですが、それを続けていると何が起きるかというと、社員のモチベーションの低下です。いつのまにか会社から与えられたゴールのために働くことに終始し、社会のため働いているという感覚が薄れていくからです。

金融資本主義における対株主に対する責任を果たしながら、いかに共感資本的なエコシステムを維持するのか?このバランスをとることがこれからの企業経営だ、と私は考えています。すなわちエクスターナルマネジメントとインターナルマネジメントを両方同時並行でできるか、ということに尽きるのではないでしょうか。

(写真:シグマクシス・柴沼氏)

柴沼俊一氏
プロフィール
株式会社シグマクシス マネージング・ディレクター ヒューリスティックシェルパ担当。
日本銀行、外資系コンサルティングファーム、ファンド投資先企業を経て現在に至る。金融、消費財・サービス、製造業、ファンド等の幅広い業界に対し、全社・事業戦略やM&A・提携戦略の策定・実行支援、新規事業立ち上げ支援、営業・マーケティングのオペレーション革新等のプロジェクトを得意とする。現在、グロービス経営大学院教授。

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