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インプロ・セミナー「AI/IoT時代を生き抜くキャリア戦略」 開催報告 第2回 (2018年11月21日開催)

2019.03.15

セミナー

人生100年と言われる時代になり、インターネットやAIが発達した今日、個人のキャリア形成、会社との向き合い方も大きく変化し始めた。そこで、コラボレーションで新たな価値を創造に取り組むビジネス・コンサルティング会社、シグマクシスの柴沼俊一氏を迎え「AI/IoT時代を生き抜く4つの“観”」というテーマで講演会を開催した。今回は「世界観」について伺う。
(2018年11月21日開催)

第1回開催報告はコチラをクリックしてご覧ください。

(写真:シグマクシス・柴沼氏)

私たちは今、限界費用ゼロ社会にいる。
「事業観」に続いて「世界観」についてお話をします。

『サピエンス全史』著者のイスラエルの学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「これからは価値観とか行動様式やルール、制度が全部変わる世界が来る」と語っています。これまでの社会を動かす上での大前提が、大きく変わろうとしている、ということを言っているのです。

その一つが、「限界費用ゼロ社会」の到来です。限界費用とは「1単位のサービスを追加提供しようと思ったときにかかるコスト」。それがゼロになるということは、一回初期投資をしっかりしてしまえば、あとはマージナルコストがかからないということです。

みなさんの日常には、すでに限界費用ゼロがあふれています。例えば電話するのに、昔は通話料を払うのが普通でしたが、今はLINEやSkypeを使えば、通話そのものは無料ですね。そういうモデルが、エネルギーやロジスティクス、様々なクラウドサービスなどに適用されていく社会になっていくというのが「限界費用ゼロ社会」です。

さて、何もかも無料になるわけだからいい話に聞こえますが、実は格差を生む要因にもなります。ある幾つかの大きい会社がその利益を得る一方で、その他の会社は消えていくということも裏では起きている。下の図は、アメリカの上位10%の方がどれくらいの世の中の所得を得ているのかという図になります。

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赤線を見ると、すでに2012年で10%の方々が全体の50%の所得を得ている。1928年のまさに世界大恐慌の時期のラインとほぼ同じレベルなんですね。トレンドで眺めると、この所得の格差問題はかなり大きくなっているのが分かります。日本でも平均所得が大体この10年で100万円程度落ちてきていると言われ、欧州でも南欧では若年層の失業率が20代で30%、40%になっています。これはまさに移民、難民の話が関係しています。

トランプ大統領は、この格差の原因はグローバリゼーションにあると言っているわけですが、デジタライゼーションによって限界費用がゼロになったことから起きている現象でもあると私は感じています。

少子高齢化の一途をたどる日本
さらに日本はもう一つ、悩ましい問題を抱えています。いわゆる少子高齢化による人口減、シニア化、地方消滅のお話です。

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上記の資料は2090年までの数字ですが、まず総人口が大体1億2,000万人から5,000万人ぐらいに落ちていきます。一方、高齢者65歳以上のパーセンテージを見ますと、2060年以降40%くらいで維持されます。2060年か、もうちょっと先だな、もしかしたら私はこの世にいないかもしれないなと思うかもしれませんが、実は地方都市はすでにこの状態になっています。

例えば、私がお手伝いしているある村は、村全部で2,000人ぐらいですが、55%が65歳以上です。その状態で村の機能をどうするのかという議論が当然でています。

東京は、シニア化と同時に若者の流入がありますが、地方に行けば行くほどシニア化と若者流出の組み合わせで、東京とは違った年代構成が出来上がりつつあります。先ほどのいわゆるデジタライゼーションによる限界費用ゼロ化と、この少子高齢化の同時発生にどう対処していくのか、というのが、われわれ日本人に突き付けられた論点です。

「共感」のもたらす価値への意識
さて、そんな中登場したのが「共感資本主義」という考え方です。これまでは、国家の成長はGDP(gross domestic product)で測られてきました。日本ですと年500兆円ぐらいで、20年間変わっていません。でも本当にわれわれの幸せや豊かさは20年間増えていないのか、何も変わっていないのか、というと、そんなことはありませんね。

例えばみなさんスマホで、小学校時代の友達を探しだして連絡を取ろうと思ったら取れますね。FacebookやTwitterがあるし、検索エンジンがある。友人たちの消息や動向を毎日知りたいから毎日会いましょう、というのはナンセンスですが、朝起きてから寝るまで、スマホを通じてやりとりもできるしSNSで動きも手に取るようにわかる。いいことがあった時に、Facebookにそれを書いて投稿して、お友達から「いいね」をたくさん貰うと嬉しくなったり安らいだりしますね。こんなことが普通になったのはこの10年くらいです。

いってみれば、昔の中国の皇帝ですら出来なかったことを、われわれ一人ひとりの市民がいとも簡単にできてしまっている世界なんですね。でも、この生活の変化から生まれる豊かさは、GDPにはカウントされません。なぜなら、GDPはお金の交換が発生しないかぎり付加価値としてカウントしないからです。これが「金融資本主義」の原理です。

でも、それらのお金の交換がない価値を「価値だ」と言いきる世界があってよいのではないか、というのが「共感資本主義」です。それをちゃんとわれわれが意識すれば、社会はもっと豊かに、よいものになっていくのではないかと思います。

個人のデータを使って国民を管理?
では、そうなっていくと社会の仕組みはどうなるのでしょうか。大げさな話のようで、実は中国ではすでに様子が変わってきています。

アリババの子会社に芝麻(ごま)信用という会社があります。このサービスではユーザー一人ひとりが購買履歴、支払い能力、交友関係などといった要素でスコアリングされています。例えば、誰と友達になっているかによって自分のスコアリングが変わる。これが600点を下回りますと、信用が落ちて、シェアリングの自転車を借りようとしても担保を要求されるなどのペナルティーがつきます。逆に700点を超えますと、シンガポールのビザを国のチェックなしで自動的に取得できたりする。

企業や結婚相談所もこのデータを使い始めているという話もあり、10億人を超える国民を抱える国家が、国のガバナンスの機構としてこの仕組みを使い始めている可能性があると思われます。秦の始皇帝は人を統治するための手法として官僚制をつくったわけですが、習近平はデジタルデータによる管理、人の行動変容を促すということをガバナンス手法に取り入れ始めた、ということなのではないでしょうか。

1945年のポツダム宣言以降、民主主義を大切にして生きてきた私たち日本人から見ると、「個人情報をこんなに使っていいのか」というざわつく気持ちは否めません。ヨーロッパは個人情報を自由に使うことは絶対にしたくない、という姿勢を明確に打ち出し、GDPR(EU一般データ保護規則)を制定しています。各国の歴史や文化によって、かなりデータの使い方は異なっていると言えますが、いずれにしても、いかに新しい枠組みを作り、行動変容を含めた制度やルールをどう作りこんでいけるかが問われている、ということでしょう。

(写真:シグマクシス・柴沼氏)

今の時代がまさに「虚構」を作り替える時代の転換期
ここで、今の社会の仕組みがどうやってできてきたか、ざっくり振り返ってみます。みなさん『国富論』のアダム・スミスをご存じだと思います。彼は、個人に収入源があることを前提に、お互いに知り合いであっても、物々交換すると市場の効率化メカニズムを通じて全体最適が行われる、と言った人なわけですね。そもそもこの「個人に所有権がある」という考え方自体、この時に生まれたものです。

そして、「企業」が生まれ、「株式会社」という形態が登場する。企業は拡大を目指して設備投資をし始めますが、それにはまとまったお金が必要。そこで、「お金を貸し出すかわりに預金を受けいれる」という信用制度の上に成り立つ銀行が登場した。でも銀行間のお金のやりとりは金利が上がってしまうので、今度はそれを安定させるために中央銀行が作られます。

「金融」の仕組で支えられて「企業」が増殖すると、今度は農村で働いていた人たちが町にでて生活をし始めます。戦争が起きれば、クワや刀を持って村から出てくるかわりに、常備軍が組成されて出撃するようになり、国家の仕組を機能的に動かすために官僚制ができて、憲法生まれ、義務教育で平等に人に教育がほどこされるようになりました。そして、社会保障制度が完成します。

金融資本主義、そして国民国家の成り立ちを大雑把に説明すると、こういう流れでできていったわけですが、前述のハラリ氏は、このすべてを「人間が作った虚構である」と言い切ります。すなわち、今我々が生活の前提においている社会の仕組は、不変の真理ではなく、あくまで人間が自分たちのために作り上げたものにすぎない、ということです。

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この完成した虚構が、新しいものに全部替わっていくというのが、今私たちが直面している時代です。デジタル化やAI化により、所有から利用になる。組織も集中型から分散型になり、DAO組織も登場します。インフラは集中型から限界費用ゼロの分散型になり。軍隊はサイバー化・自動化が進み、教育も義務教育というよりは、ライフタイムセルフラーニングになるでしょう。社会保障も、国が負担するというよりは互助・共感コミュニティーになっていくのだと思います。

そもそも金融資本主義・工業社会に突入する前、人間は重商主義・農業社会にいました。「大家族で農業をやってみんなで生活しよう」という世界にいたわけです。しかし工業社会になると、工場の組み立てラインに、大家族というコミュニティーから一人ひとりをはがして働かせなきゃいけない。だから国は「大家族」というレイヤーをすっ飛ばして直接「個人」を動機付けしてマネジメントする必要が出てきたのです。君たちには自由な意思がある、でも意思があるなら義務もあるよねという論理になるわけです。そして義務を果たすなら権利を渡すよ、ということで、「人権」という概念ができたわけです。

今の私たちにとって「人権」はあって当然ではありますが、では、限界費用ゼロ・共感資本主義の社会になると、権利と義務という概念そのものはどうなるのか?個人よりチームなのでは?はたまたコミュニティーなのでは?という議論もでてくるのかもしれません。

世の中は300年ぐらいの単位で大きな虚構の変化が生まれるのですが、今がまさにその変化の瞬間でしょう、ということになります。

(写真:シグマクシス・柴沼氏)

崩れつつある自由貿易体制
さて、それだけでも大変なのですが、実は今、100年サイクルで起きる変化も同時に起きている。これがとても悩ましいところです。

最近、「地政学」に注目が集まっています。地政学というのはジオポリティクス、つまり国境の話です。

実は国境という概念は、第二次大戦以降、ほとんど議論されていません。なぜかといいますと、ベルリンの壁の崩壊、そして旧ソ連が崩壊するまでは、国境をめぐる戦いというより、民主主義と共産主義という「主義の戦い」の世界でした。どこの国境が引かれているかは関係なく、この国はどっちの主義だということだけが論点になっていたのです。

ところが、それが終わった後はグローバル経済の時代になりました。つまり、コストが安い所に行けば儲かるとみんな考え始めた。人件費が安くて、光熱費が安くて、社会インフラが設置されていたら、そこに進出しようとし始めたわけです。

当然そういう場所は不安定だったり危険だったりする地域も多いわけですが、それでもこぞって各国の政府や企業が進出した理由は、「何があってもアメリカが最後は守ってくれる」というパクスアメリカーナの考えが根底にあったから。つまり、自由貿易体制はアメリカ警察があってこそのものだったのです。

しかしオバマ大統領の頃から米国のその勢いに陰りが出て、トランプ大統領になると「もう世界の警察はやらない」宣言が出されました。APECで中国とアメリカがお互いに対立して最後に声明を出さなかったというのも象徴的な出来事です。まさに自由貿易体制そのものが壊れ始めています。

イギリス、アメリカというシーパワーの世界から、ロシアや中国、トルコとか、ランドパワーへのシフトが進んでいることもあります。民主主義・資本主義の組み合わせから、気が付いたら国家主義が世界を覆っているような状況にシフトしてきている感覚もあり、地政学的にみても、この100年の安定から次のパラダイムに移りつつある、そんな状態が今だと考えています。

柴沼俊一氏
プロフィール
株式会社シグマクシス マネージング・ディレクター ヒューリスティックシェルパ担当。
日本銀行、外資系コンサルティングファーム、ファンド投資先企業を経て現在に至る。金融、消費財・サービス、製造業、ファンド等の幅広い業界に対し、全社・事業戦略やM&A・提携戦略の策定・実行支援、新規事業立ち上げ支援、営業・マーケティングのオペレーション革新等のプロジェクトを得意とする。現在、グロービス経営大学院教授。

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